親父は寡黙な人柄で昔の話とかはあまりしなかった。特に東京に住んでいた頃のことは一度も父から聞いたことはない。
母も父が昔東京の三田に住んでいて前妻との間に1人子供を亡くしていることぐらいで、あとは何も話してくれないから私も知らないと言っていた。
私がある程度の話を聞いたのは、伯母さんとその娘(従姉)からだった。
年代はよく判らないが、もう半世紀以上も前になる。
親父は東京港区の三田方面にある桜田通り(国道一号)に面した所に和菓子の店舗を構えていた。けっこう繁盛していたという。
道路を隔てたすぐ向いには慶応大学の東門がありこの通りの真正面にはでかくそびえ立つ東京タワーが建っている。
「桜田通り」はけっこう写真などの撮影のスポットで、時折TVドラマなどで東京タワーが映ったこの通りを歩くシーンを観ることがある。
親父が住んでいた頃は東京タワーはまだ影も形も無い。半世紀以上も前のことだから。
親父はこの通りでどんな想いを描いていたんだろう?
そして東京タワーの無いこの「桜田通り」の風景はどんなんだったんだろう? と思う。
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